個人事業主の税務調査で争点になりやすいポイントの1つに家族への給料があります。
所得税は所得が多くなれば多くなるほど税率が上昇する累進税率の制度がとられているため事業で利益が出る場合、税負担を下げるため、親族へ給料を支払い、税金の負担を下げたいと考えることは至極当然のことです。
しかし、税務署も当然所得分散効果を理解しているため、個人の税務調査でも争点にするわけです。
親族への所得分散効果は大きいため、親族へ給与を税務調査で否認された場合、そのダメージも深刻なものとなってしまいます。
そのため、個人事業主で家族へ支払う給料を支払う方は特にこの取り扱いについては正しく理解しておく必要があります。
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個人事業者における家族への給与の取り扱い
個人事業主が家族へ給料を支払う場合を税金の考えで大きく区分すると以下の2つ区分することが出来ます。
1 生計一親族への給与の支払い
2 生計別親族への給与の支払い
生計一の判定は複雑ですが、ざっくり言えば同居していて一緒に生活しているようなケースや、生活費の大半を仕送りしているようなケースが該当します。
生計一親族への給与の支払い
生計を一にする配偶者やその他の親族に対し、支払った給料は原則として必要経費に入れることは出来ません。
そのため、例えば、奥さんが毎日一生懸命家業を朝から晩まで手伝っているから、お給料を支払っても経費にならないわけです。
これって酷い話ですよね・・・。
そのため、所得税法では一定の要件を満たす場合には必要経費にいれてあげましょうとしています。
一定の要件を満たすものとしては青色事業専従者給与と事業専従者控除(白色申告)のといったものがあります。
青色事業専従者給与
いくら経費に出来るの?
青色事業専従者へ支払った給与は、要件を満たした場合、全額を必要経費に算入させることが出来ます。
認められるための要件
青色事業専従者給与が認められる要件は以下のとおりです。
- 青色事業専従者(※)に支払われた給与であること。
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出していること。
- 届出書に記載されている方法により支払われ、しかもその記載されている金額の範囲内で支払われたものであること。
- 青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当であると認められる金額であること。
※青色事業専従者とは、次の要件のいずれにも該当する人をいいます。
①青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
②その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
③その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
事業専従者控除
いくら経費に出来るの?
白色申告の場合、支払ったお給料自体は経費にならず、一定の計算式で計算した金額を必要経費とみなし、控除します。
一定の計算式とは、次の1又は2の金額のどちらか低い金額です。
- 配偶者86万円、その他の親族一人につき50万円
- 専従者控除適用前の事業所得等÷(専従者の人数+1人)
控除を受ける要件
白色事業専従者控除を受けるための要件は、次のとおりです。
- 白色申告者の営む事業に事業専従者がいること。
- 確定申告書にこの控除を受ける旨やその金額など必要な事項を記載すること。・・・届出や実際の支払いなどは不要
※ 事業専従者とは、次の要件の全てに該当する人をいいます。
①白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
②その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
③その年を通じて6月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事していること。
生計別親族への給与の支払い
生計一親族については、上記のとおり、必要経費算入要件があり、税務調査においても厳しくチェックされるポイントです。
それでは、生計別親族に対する給与はどう考えればよいのでしょうか?
実は生計別親族については、上記のような規制はありません。
そのため、一般の従業員さんと同じような基準で給与を支払っていれば原則、必要経費にすることができます。
しかし、親族であるから特別扱いをして、実態に見合わないような高額なお給料を出しているような場合には、必要経費とは認められない恐れもあるため注意が必要です。
個人事業者が家族に支払う給与 間違い事例
確定申告時期に受ける相談やスポットでの個人事業主の税務調査相談などを受けていると多くの場合で家族へ支払う給与の間違い事例に遭遇します。
家族への給与を否認された場合、税負担は非常に高額になります。
実際に働いていない親族への給与は税務調査でも重点チェックポイントです。
青色申告の場合には要件が多いため特に注意が必要です。
青色事業専従者給与に関する届出の提出を失念している場合
事業を手伝ってくれている配偶者などに給与を支払っているのだから、当然に経費になるよね?と考えている個人事業主さんは意外に多いです。
期限は青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった人は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2月以内)となっています。
届出が出ていないにも関わらず、給与を支払っていませんか?
青色事業専従者給与に関する届出以上に給与を支払ってしまっている場合
青色事業専従者給与の届出を提出してから、数年を経過しているような場合、届出を提出していたことを忘れており、届出書に記載した給与の上限額をいくらにしていたかも失念していたりします。
この場合、いくらしっかり働いたことをアピールしても形式基準なので一発アウトになってしまいます。
因みに法人における役員報酬とは違い、毎月一定額である必要もありません。届け出た金額の範囲内であればよいとされています。
上限金額の変更を行いたい際は、青色事業専従者給与に関する届出を遅滞なく提出すればよいことになっています。変更の場合には、遅滞なくなので、いつ変更してもよいわけです。
意外に確定申告期限までに提出しないといけないと考えている人が多いようですが、変更の場合には遅滞なく変更届出書を提出すればよいので、年の途中でも提出することが可能です。
白色申告の場合の事業専従者控除に対する認識誤り
白色申告の場合には、一定額(86万円や50万円)を給与とみなして控除してくれるという規定です。
実際に支払った金額を控除しているような申告書も見受けられますが白色申告の場合には誤りです。
また、控除額は配偶者の場合86万円、その他の親族の場合50万円と一定計算を比較して低い金額となるにも関わらず、比較計算をせずに86万円や50万円を控除してしまっている場合も見受けられます。
専ら事業に従事とはいえない場合
実際に働いていない場合や片手間で事業を手伝っているような場合、専ら事業に従事しているという要件を満たしません。
「専ら従事していること」に該当するかどうかの判定は実際難しいですが、明らかに仕事をしていない場合などは特に税務調査で厳しく追及されるため注意が必要です。
また、「事業」についても注意が必要です。
例えば、不動産貸付けが事業として行われている場合(原則5棟10室基準)は適用がありますが、それ以外の場合には適用がありません。
配偶者控除や扶養控除の適用を受けてしまっている場合
青色事業専従者給与や事業専従者控除を受ける場合には配偶者控除や扶養控除の重複適用は出来ないことになっています。
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