税務調査の立ち会いに関する相談を受けているとよく「個人事業主は売上がいくらぐらいになると税務調査に選ばれるのか?」といった質問を受けます。
都市伝説的なものとして個人事業主は1千万円を超えなければ税務調査をされないなどということを鵜呑みにしている方もいます。
そこで今回は税務調査の選定がどのように行われているのか?基準はどんなものなのか?ということをご紹介します。

売上が1000万円以下であれば税務調査は来ない?
消費税の納税義務が課税売上1000万円を基準としていることから、「売上1000万円に達していなければ消費税の納税義務もないことから税務調査は来ない」と考えている方が一定数いますが、税務調査の対象となる明確な基準が定められているわけではありません。
ただし、税務調査の目的が納税者が行った申告内容に誤りがないか確認し、適正な納税ができているか調査することにあるため、一般的には納税額が大きいほど税務調査の対象になりやすいといえます。
そして適正な納税には消費税も当然含まれるため、消費税の納税義務についても判断をする必要から課税対象額が「1,000万円」を超えると税務調査の対象になりやすいといわれています。
税務調査の選定基準は明確に決まっていないが傾向は存在
税務調査は売上や所得が一定額を超えた場合に必ず行われるものではなく、確定申告の必要がある個人事業主であれば誰でも対象になり得ます。
ただし、経験上、実際に税務調査に選ばれた申告書を見てきたなかで傾向は存在すると感じています。
過去に対応した事案ではどのような調査理由が多かったのか?
調査官は調査理由を納税者へ明かすことはありません。
しかし、調査官によっては税務調査をスムーズに行うために税理士に調査理由を一部明らかにして協力を求めてくる場合もあります。また、調査が進んでくると明らかにこだわっている部分が見えてくる場合もあるため、このような場合には調査理由が判明します。
サンプルとしては少し心もとない件数ですが、私が対応した直近50件を例にどのような理由により税務調査が実施されていたのかをご紹介します。
- 売上が1000万円弱
売上が800~900万円台が数年連続で申告されている場合には消費税の納税義務を判定するために調査が行われることが多いです。ただし、インボイスが導入されたことにより、今後この理由は減ってくると個人的には考えています。
- 売上が急激に増加している。
事業を開始して初年度から多額の売上が上がっている場合には、それ以前の申告有無の確認をされることがあります。また、法人成りが契機になり税務調査が実施されていると思われる場合もありました。
- 税務署が把握している売上と申告内容に差異がある
取引先に税務調査が実施された際に取引金額が把握されており、提出された申告書と税務署が把握している取引金額が相違しているケースも調査事案としては多いです。
- 明らかに生活が成り立たない所得金額
一般的な生活費にも満たない所得しかないような申告を続けた場合、売上の除外か経費として計上しているものに生活費が多く含まっていることが多いため調査先として選ばれています。最近では個人の税務調査といえばこの理由が最も多いように思えます。
- 同業他社に比べて異常値がある。
税務署には多くの同業他社データがあり、そのデータと比較して明らかに問題がありそうな事業者を選定して税務調査を行っています。最近ではAIで調査先を選定しており、調査実績も向上しているようなデータも示されています。この傾向も今後増加してくると思われます。
- 確定申告をしていない
確定申告を行う必要があるにも関わらず、申告していない場合には当然調査対象となります。無申告の場合、加算税と延滞税の負担が非常に重い金額となります。また、無申告者に対する税務署の対応は非常に厳しいものとなります。
まとめ
「売上がいくらから税務調査に選ばれる」という明確な決まりはありませんが、税務署としても年間売上が1,000万円を超える場合や1000万円弱の場合には一度の調査で所得税だけではなく消費税の調査も行うことが出来るため、調査リスクが高まる傾向にあります。
ただし、売上が低くても申告内容や経費、所得金額によっては調査対象となることがあります。したがって、売上規模にかかわらず、正確な記帳と適切な申告を心がけることが重要です。