税務調査に関する基礎知識

重加算税と更正等の期間制限の特例(7年遡及)の要件の違いについて

重加算税の賦課要件である「隠ぺい仮装行為」と更正等の期間制限の特例(7年遡及)の要件である「偽りその他不正行為」との区別は、税務調査の実務上、極めて曖昧に取り扱われています。

その証拠に重加算税が賦課される場合、調査官から「納税者が行った行為は隠蔽仮装行為に該当するため重加算税となり、国税通則法61条の延滞税の特例計算には該当しない」と説明を受けることがあげられます。(国税庁のホームぺージにも記載があります)

延滞税の特例計算については、重加算税に該当するからではなく、「偽りその他不正行為」に該当する場合に適用されるはずです。

そこで以下では条文及び裁判所の判断を確認したうえで両者の違いはどこにあるのかを確認してみたいと思います。

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条文の比較

以下は重加算税及び更正等の期間制限の特例について記載されている条文の一部です。 

国税通則法68条①(一部抜粋)  

納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、・・・~

 

国税通則法71条⑤(一部抜粋 以下「偽りその他不正行為」という) 

~更正決定等は、第1項又は前2項の規定にかかわらず、第1項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から7年を経過する日まで、することができる。

一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税(当該国税に係る加算税及び過怠税を含む。)についての更正決定等・・・・~

 

重加算税と偽りその他不正行為の違いについて

条文を比較してみると大きく以下の2つの違いがあることに気づきます。

  • 行為主体 だれが行為をしたのか?その範囲はどこまでか?
  • 行為内容 偽りその他不正行為なのか?隠蔽仮装行為なのか?両者は違いがあるのか?

 

「行為主体」はだれか?

大きな違いの一つが「重加算税」のほうは「納税者」が行為を行っていることが条件の1つであり、他方の「偽りその他不正行為」については「納税者に限定をしてない」という明確な違いがあります。

そして、ここでいう納税者とは納税者本人は当然のこと、第三者の隠ぺい仮装行為が納税者自身の隠ぺい又は仮装行為と同視することが出来る場合も含むとされています。

他方、偽りその他不正行為の場合は条文上は納税者に限定しておらず、納税者から委任を受けたものが偽りその他不正行為を行った場合にも適用があるとされています。(参考判例 最高裁平成17年1月17日判決)

 

「行為内容」についての違い

両者の行為内容の違いについては条文上明らかにされておらず、「行為内容」については以下の判例により確認をします。

 

  • 重加算税における隠蔽仮装行為について(最高裁平成7年4月28日判決)

重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものであるが、重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである。

 

  • 偽りその他不正行為について(福岡高裁昭和51年6月30日判決)

税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうとした上で、「偽計その他の工作を伴う不正な行為」に該当する行為について、次のとおり判示している。

「偽計その他工作を伴う不正行為を行うとは、名義の仮装、二重帳簿を作成する等して、法定の申告期限内に申告せず、税務署員の調査上の質問に対し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作出した虚偽の事実を呈示したりして、正当に納付すべき税額を過少にして、その差額を免れたことは勿論、納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得の金額をことさらに過少にした内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足税額を免かれる行為、いわゆる過少申告行為も、それ自体単なる不申告の不作為にとどまるものではなく、偽りの工作的不正行為といえる。

 

まとめ

 行為主体とその範囲  

重加算税   

納税者(ただし、納税者と同視される者も含む)

偽りその他不正行為

納税者に限定はしない(委任を受けたものも含む)

※ 条文上は納税者に限定していないことも考えると偽りその他不正行為のほうが範囲が広いと考えらえる。

 

行為内容とその範囲

重加算税  

過少申告の意図があること + 外部からもうかがい得る特段の行為

偽りその他不正行為 

税額を逃れる意図があること + 偽計その他の工作を伴う不正な行為(殊更に内容虚偽となった過少申告も含む)

 

※注意※ 隠蔽仮装行為と偽りその他不正行為の違いについては様々な判例や学説があり、未だその区分は明確にはなっていないと思われます。そのため、本記事はあくまで個人的な考えてであることにご注意ください。

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